tsurusoの小説

鶴海蒼悠のSF小説

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第17話 SLの季節 1973年9月24日 月曜 澄んだ空が広がると体育祭の季節になる。その体育祭は昨日行われて今日は振替休日になっている。僕はこの休みを使ってSLに乗るという日帰り旅に参加した。そのメンバーは、澤田くん、梅野くん、兼田くん、そして僕を加…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第16話 一次方程式 1973年9月7日 金曜 「津々木くん、2060年の世界ではどこに住んでいるの?」 「私は警察庁の部局である“時間犯罪警察局”に所属しているんだ。だから都内の文京区に住まいを構えている」 「えっ!偶然だな、僕が2043年に住んでいたマンショ…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第15話 転校生 1973年9月4日 火曜 昨日から2学期が始まっている。新学期を迎えて気になることがひとつあった。それは担任の野々村先生が体調を崩されて、出勤されていないことだった。それで新任教師の村下先生が代理で教壇に立つことになった。 隣の1年3組…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第14話 市立図書館 1973年8月25日 土曜 お盆が過ぎると夏休みも終盤に入る。この頃は夏季休暇が第2フェーズへ移行するようなもので、宿題をそろそろ仕上げて2学期に備える時期になる。これまでは7月のクマゼミ、8月からのアブラゼミが炎夏を謳歌していた。し…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第13話 遊泳禁止 1973年8月9日 木曜 朝から蝉が大合唱している。先月エントリーしたクマゼミに加えて、8月からはアブラゼミが土の中から大量に這い出して木にしがみつく。こうして夏の暑苦しさは頂点に達しようとしている。これだけ暑いと海に入りたくもなる…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第12話 ピエリス文庫 1973年7月24日 火曜 少年の父親が昨日の夜に戻って来た。昨日でちょうど1週間になる。11歳になる少年の弟は 「今回は早く帰って来たなぁ」とつぶやいていた。だからそういうことらしい。父親は普段と変わらない朝だと言わんばかりに、少…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第11話 古典コンピュータ 1973年7月20日 金曜 いよいよ明日から夏休みに入る。終業式のあとに学級活動があって、通知表が配られると1学期は終了になる。少年の父親は依然として家出をしたままで、僕は少年の母親に「もう二度としません、ごめんなさい」と、…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第10話 家出人 1973年7月17日 火曜 少年の母親が玄関の中で怒りに震えていた。僕が不正行為を疑われているからだった。午後遅くに学校から電話があって、母親は急いで野々村先生を訪ねたそうだ。そしてテストの顛末について説明を受けた。彼女は恥をかかされ…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第9話 タイムリーパー 1973年7月16日 月曜 今週から生活リズムを変えることにした。帰宅して夕食と入浴を済ませると直ぐに就寝する。深夜2時に起きたら朝まで勉強する。きっかけは在日米軍向けのFENを毎日聴きたいという思いからだった。それでも近くの基地…

星霜に棲むという覚悟~Time Without End~

第8話 クリティカルエラー 1973年7月11日 水曜 今日も朝から雲ひとつない青空が広がる。「7月4日には梅雨明けしていました」と居間のテレビから聞こえてきた。これは例年に比べるとかなり早いらしい。 教室は小高い丘の上に建つ校舎の3階にあるから見晴らし…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第7話 翻訳機 1973年7月4日 水曜 社会の授業が始まっている。1学期は世界地理を中心に学ぶ。先生は熱帯地域や温帯地域などの特徴、そして気候の違いによる人々の暮らしぶりを説明している。同時に黒板を使ってそれらをカテゴライズする。板書のカリカリやキ…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第6話 もう1人の異邦人 1973年7月3日 火曜 朝から青空が広がる。今日の3・4時間目は美術で、学校の敷地内で風景写生をする。帽子を被り、スケッチブック、鉛筆、水彩絵の具、折りたたみ椅子、そして水筒を持って好きな場所を探す。ただし4人での行動がルー…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第5話 フックの法則 1973年6月29日 金曜 教室の前方右手にある引き戸がガラガラと音を立てた。大きな目を鋭く光らせて大柄の先生が入ってくる。柔道家のような体格と圧の強さに僕は圧倒されてしまった。この人がクラス名簿にあった担任の野々村先生だった。…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第4話 過去への扉 1973年6月29日 金曜 急がないと7時になる。クローゼットから夏用学生服やシャツ・靴下など引っ張り出しては着る・・・・・・元の世界では学生服なんて無かったから新鮮でもある。壁に貼ってある時間割表を見ながら、教科書とノートをカバンに詰め…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第3話 他人を演じる 1973年6月29日 早朝 僕の意識が他人の意識を押し出した。少年にすれば、誰かが体内に無断で入ってきて全ての知覚を奪い去ったようなものだろう。少年の意識体は今頃どこにあるのだろうか? 考えただけでも怖くなる。想像すらしなかった惨…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第2話 SONY CF-1450 1973年6月29日 薄明 無造作に置かれたカバンには、中学1年の教科書やノートが数冊、そして筆記用具が入っていた。教科書とノートには、『1年4組 摩耶浩之』と書いてある。そうか、まやひろゆき。その名を頭の中で復唱した。 卓上カレン…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第1話 時空を超えた夜 1973年6月29日 未明 ほのかに漂う匂いは何処かで嗅いだことのある香りだった。ゆっくりと鼻をかすめていくと、深い闇の中に沈んでいた感覚と意識が刺激された・・・・・・僕は覚醒した。そしてゆっくりとベッドから起き上がった。 『此処はど…