tsurusoの小説

鶴海蒼悠のSF小説

2023-01-01から1年間の記事一覧

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

最終47話 汽笛 1975年3月20日 木曜 遠くで走る列車の汽笛が聞こえてきた。 ベッドから起き上がって机の置時計を見ると、午前4時21分だった。 最近は蒸気機関車を見る機会がずいぶん減ったと思う。 国鉄は「無煙化」を進めているから、『DD51形』(※注42)など…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第46話 電気分解 1975年2月11日 火曜 10年後の未来から戻ってきて、2日目の朝を迎えた。今朝も玄関の外には、近所4人組のうち2人が迎えに来てくれている。昨日、学校で生徒名簿を確認すると、目の前にいる女子生徒の名は、山本遊羽恋(やまもとゆうこ)さん…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第45話 パラレルワールド 1975年2月10日 月曜 『大騒ぎになることもなかったし、必要な情報も十分に得られたよ。実は、途中で何度かあきらめかけたんだ。それでも、頑張ってなんとかハッキング出来たからね。だから今はほっとしているよ。それにしても、兄貴…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第44話 船上決戦 1975年1月26日 日曜 愛原さんからボトルを渡された津々木捜査官は、この小さなボトルを右手に持ってフタを回した。中身をこぼさないように注意しながら、ボトルを鼻の近くに持っていった。彼は鼻で深く息を吸って、香りの特徴を感じ取ろうと…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第43話 溶剤抽出法 1975年1月8日 水曜 寒い朝は苦手だった。目覚まし時計が鳴り続けていても、ベッドから起き出す気力が湧いてこない。布団がどれだけ恋しいことか、もう少し寝ていたい誘惑にかられる―――部屋のドアが突然開いて、少年の母親が入って来た。「…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第42話 通信遮断 1974年12月24日 火曜 2学期の終業式が始まり、明日からは冬休みに入る。校長先生は式の冒頭で挨拶をされた。「みなさんの中には、東海道新幹線に乗った人もいるでしょう。今は岡山までの山陽新幹線も、年が明けて3月10日になれば、博多まで…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第41話 月面着陸 1974年12月22日 日曜 赤江瀑先生の、2回目実習に参加するために、朝早くからバスに乗っていた。ただし、前回と違っているのは、今日は梅野くんと僕の2人だということ。 昨日の土曜は、水産大学の“海洋学教室”を聴講して、1時間のランチミー…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第40話 海洋学教室 1974年12月21日 土曜 「植物にばかり目を奪われていたということね。果実は分からなくもないけど、昆虫や動物からも香り成分が採取されているなんて、知らなかったわ・・・思い込みには、気を付けないといけないわね」愛原さんは予想もしなか…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第39話 動物由来 1974年12月9日 月曜 今週はとても忙しかった。週明けの月曜には、愛原さんがボトルにオイルを詰めて教室まで持ってきてくれた。彼女は 「オイルを買い求めてきた老人は、1本あたり5mlと指定していたから、まずはこのくらいの量で問題ない…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第38話 植物由来 1974年12月7日 土曜 2時間目の授業が始まっている。理科教師の林多先生は、か細い声で話す物静かなタイプだから、注意しておかないと大事なところを聞き逃してしまう。先生は生真面目に淡々と授業を進めてくれるけれど、どうも頭に入らない…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第37話 犯人の匂い 1974年12月6日 金曜 正門への坂道を上がる生徒達の中には、厚手のビニール袋を手にして、登校する姿が見える。道のあちこちで、レコードを聴いた感想を熱く語る光景は、今ではごく自然な風景になっている。次々と発売される新譜のレコード…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第36話 再会 1974年11月10日 日曜 気が付けば、車窓から見る道沿いの街路樹が色づきを見せていた。そして山の色彩も秋色に染まる準備を始めているようだ。これから秋が徐々に深まりを見せると、青空と紅葉のコントラストは、美しい風景画にとって大切な要素…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第35話 ホワイトビーチ 1974年8月10日 土曜 8月8日木曜の朝、沖縄に来て初めて海を眺めることができた。海岸線の道路をバイクに乗って疾走するのは気持ちが良い。地図と照らし合わせると、青い海の先には宮城島(みやぎじま)や浜比嘉島(はまひがじま)が見…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第34話 超能力 1974年8月8日 木曜 8月5日 月曜深夜 ―― コザ十字路から東南方向へ、バイクで5分ほど走るとアキラの家がある。到着した時は、すでに深夜2時を過ぎていた。クラブなど数件の店舗で張込を続けたけれど、目立った成果はなかった。アキラの部屋に入…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第33話 コザのアキラ 1974年8月6日 火曜 8月6日火曜、コザの歓楽街はいろんな意味で暑かった。いや、むしろ熱かったと言ってもよい。沖縄にやってきて3日目になる。相変わらず朝から夏雲が沸き上がっている。照りつける日差しの中で雲の成長を見ていると、今…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第32話 別れ 1974年7月20日 土曜 梅雨の季節は、エアコンの無いプレハブ教室にとって、日々が蒸し暑さとの戦いになる。隣接する老朽化した鉄筋造りの西校舎は、涼しげに思えて羨ましく思う。しかし期末テストが終わって、夏休みが近くなると様子は少し違って…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第31話 スカイセンサー 1974年7月14日 日曜 日本短波放送は、1974年1月に放送を開始した。番組の中に、三菱電機が提供する“ハロージーガム”がある。これはBCL専門の情報番組で、平日の18時15分から15分間放送されている。番組内容は、主に最新の放送局周…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第30話 宇宙大作戦 1974年7月10日 水曜 電力節減の為に、0時30分以降のテレビ放送は今でも全て休止されている。放送終了1時間前に放映されているのが、アメリカのドラマ『宇宙大作戦』(※注20)の再放送だった。少年の家では夜23時を過ぎてテレビを見ることは…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第29話 夕暮れの演奏会 1974年6月25日 火曜 世間では相変わらず様々な節電の取り組みが続いている。僕が困ることはほとんど無いけれど、強いてあげればテレビ放送の休止だった。放送の打ち切りは、深夜の時間帯だけではなくて、日中にまで及んでいた。こうな…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第28話 マトリ 1974年6月15日 土曜 夜の闇が迫ると、周りの音は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。此処は船舶を係留して、人や貨物の積み卸しをする埠頭。手元すら見づらい暗闇の中で、海面を覗き込むのはとても危険だ。得体の知れない何かに…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第27話 小説家 1974年5月19日 日曜 4月22日に誕生日を迎え、25歳の中学2年生になった僕は、唐戸桟橋のある街までバスに揺られていた。唐戸には市庁舎があるから、人の往来が多くバス路線の分岐点になっている。桟橋からは、対岸の門司港まで連絡船が頻繁に行…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第26話 アンダーワールド 1974年4月22日 月曜 一日の出来事を思い返すと、なかなか寝付けなかった。それに、津々木捜査官はどうなったのだろうと、あれこれ考えるから、何度も目が覚める。こうして寝不足のまま朝を迎えた。 捜査官の無事な姿を一刻も早く確…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第25話 春のサイクリング 1974年4月21日 日曜 自転車にまたがってペダルを踏むと、春の陽気と心地よい風が体を包み込む。今日は絶好のサイクリング日和のようだ。 約束した集合時間は9時30分だったけれど、集合場所の綾羅木駅には、30分も早く到着した。僕は…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第24話 新学年 1974年4月11日 木曜 4月から新学年が始まって、僕は2年生になった。クラスは1年4組から2年1組になり、これまで学んでいた教室から、別の校舎へと移った。クラスメートも半数以上が入れ替わって、学級担任や教科担任の顔ぶれも一新されている。…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第23話 時の流れ 1974年2月17日 日曜 期末テストが、来週の2月25日から26日の日程で行われる。2学期の定期テストは満足のいく結果だったから、ここはもうひと頑張りしておきたい。失点を最小限に抑えて、何としても年間総合ランク5を獲得しよう。こうなった…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第22話 土産話 1974年1月8日 火曜 短い冬休みは終わって、昨日から3学期が始まった。この地域の冬は、寒気が流れ込んで曇りの日が多い。そうはいっても、気温は西日本の平均的な数値だから、さほど寒くはない。天気予報だと、今日は最低2度、最高10度となっ…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第21話 タイムループ 1973年11月30日 金曜 銀杏黄葉(いちょうもみじ)を見ると晩秋を感じるようになる。文化祭はそんな時期にあちこちで開催される。僕の通う中学校でも体育館をメイン会場に先週の水曜日に催された。合唱や演劇など、プログラムには数多く…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第20話 買占め騒動 1973年11月19日 月曜 体調を崩して療養を続けていた野々村先生が久し振りに教室に姿を見せた。朝の会では前かがみの姿勢で教壇に両手をついた。話すその姿には病みあがりの疲労感が滲んでみえた。 「君たちもテレビや新聞報道を目にして知…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第19話 バベルの図書館 1973年11月3日 土曜 僕の持つデータ基盤は相変わらず停止したままピクリとも動かない。原因は分からないけれど、どうも単なる故障ではないようだった。翻訳機が正常に機能しているのだから、通信障害は発生していないはず。しかもデバ…

星霜に棲むという覚悟〜Time Without End〜

第18話 歓楽街と繁華街 1973年10月7日 日曜 僕の住むこの町は、本州最西端に位置している。そう言うと寂し気な最果ての地をイメージするかもしれない。そうだとしても近海の水産物は豊富で、古くから水産加工が盛んに行われている。また沖合・遠洋漁業の拠点…